黒松の盆栽は、育てやすいとされる松の中でも多くの人に好まれるものです。黒松は、潮風(塩害)にも強いため、よく海岸沿いでも見かけますね。暑さや寒さにも強いので、盆栽としても育てやすい点が魅力的です。
では、この黒松の盆栽をどう管理していけばいいのか、詳細にご説明したいと思います。これから盆栽を始めたい方、黒松を好んでいる方に役立てていただきたいと思います。
黒松の特徴と基本的な育て方
黒松は、太陽の光と水、そして風通しをとても好みます。できれば、空気がよどみがちな温室(ビニールハウスなど)を避け、日当たりと通風を確保しましょう。
水は基本的に土が完全に乾いてからしっかり与える、というのが基本ですが、他の樹木よりもさほど神経質にならずとも大丈夫です。1日1度、土や葉から水分が蒸発しやすい夏場は1日に2回水を与えてください。
アブラムシが付きやすいので、虫の活動時期である春から秋は、夕方に葉水(葉に水をスプレーすること)をするとよいでしょう。
風を好むのは、樹木そのものだけでなく、葉もそうです。葉の密度が濃くなってきたら、適度に葉や、葉の元である芽を取り除き、空気の通りをよくします。
黒松は基本的に丈夫な樹木のうちに入りますが、ミニ盆栽の場合、まだ幼いですので、日々の“健康チェック”を怠らないようにしてください。
「黒松の盆栽」季節ごとの手入れ法
上で触れた通り、黒松は基本的に「太陽光」「風」「水」が大好きです。これらの条件を踏まえ、季節ごとの成長の度合いに応じて手入れや仕立てを行います。
新春
1~2月の間は、松の木は「休眠期」に入っています。木や根が成長し始める前のこの頃、仕立てのための針金かけを行います。
銅やアルミの針金を使って、幹や枝を好みの形に整えるのが針金かけです。単に形状を好みに仕立てるだけでなく、枝や葉の“詰まり”を避け、日当たりや風通しを確保する意味もあります。
樹木の下部(根に近い部分)から幹、枝へと上部に向けてスパイラル状に巻き付けていきます。
曲げの角度を強くしたいときは針金の間隔を狭く、緩くしたいときは広く、と覚えておいてください。また、枝を右に曲げるときは右巻き、左に曲げるときは左巻きにするのが基本です。
針金かけには経験が必要です。どの程度テンションをかけるべきか、針金の始まり部分と終わり部分をどのように処理するかも、しっかり考えておかなければなりません。さらにいえば、樹木を傷めるほど強く巻くのはNGです。
専門家に聞く、書籍を読むなど、最低限の知識を身に着けてから臨むべき、といえます。
春
3~6月には、植え替えに適した時期です。ミニ盆栽を一回り大きくしたいのなら、このタイミングで鉢を大きめのものに変えます。植え替えをするかしないかで、肥料を与える時期が変わります(肥料については下記で触れます)。
また、そろそろ害虫(カイガラムシ/マツケムシ/マツアワフキ)などが動き出す時期ですので、それに対応した薬剤を購入し、定められたスケジュールや量を散布します。
必要であれば、「芽摘み」を行い、葉の長さを調節することもあります。
植え替えをしたときの施肥
赤玉土+桐生砂を混ぜ合わせた用土を準備します。コンスタントに水やりをできる環境にあれば砂を多めに、残業が多い/出張も多いなどで水やりがおろそかになりそうなときは土を多めにしましょう。
植え替えが終われば、その後の様子を見ながら「落ち着いた」と感じられれば、1カ月後頃に施肥します。油かすを購入し、決められた量与えてください。できれば、発酵が終わった「玉肥」がよいでしょう。発酵が終わっていない油かすですと、誤って土の中に入り込んだとき、土中で発酵して根を痛めることもあります。
植え替えをしなかったときの施肥
植え替えに至るまで成長していないと判断したときは、その鉢のままで決められた量の油かすを与えます。
植え替えしたとき/しなかったときでも、1カ月ごとに油かすを与えますが、
- 以前に与えた肥料は取り除く
- 同じ位置に置かず、ずらしながら置く
ようにしてください。
芽摘み(ミドリ摘み)
針のような葉になる前の「トゲトゲ」を「芽」もしくは「ミドリ」と呼びます。ここから葉が伸びてきたとき、樹形が崩れないかを想像してみてください。不要と思えば、この段階で摘んでしまいましょう。この芽摘みは、将来の姿の調節だけでなく、枝の育ちや節目の調節の役割をも担いますので、黒松の健康状態を確認しつつ、慎重に行います。
夏から秋
7月~10月頃は、成長著しくなる頃です。しっかりと肥料や水を与えながら、芽切りや中芽切りを行い、枝と葉、全体のバランスを保ちます。特にミニ盆栽の場合、かわいらしさを保つために葉を短めにすることが大事ですが、まだ樹木が弱いこともありますので、無理に芽切りをしない方がよいでしょう。
芽切り
芽切りとは、読んで字のごとく、「芽を切る」ことです。その年最初に芽吹いた枝は勢いがあり、長く長く伸びます。これをあえて切り取り、樹形を整えます。芽切りといっても、芽を切るのではなく、ある程度成長した夏頃に「伸びた余分な枝(となる部分)を切る」ことで形を整えるのです。
新しい枝がしっかり、固くなってしまう頃にカットしましょう。樹木の勢いがよいとき、ひと夏に2回芽切りが必要となることもありますが、ミニ盆栽の場合は1回で大丈夫です。
しかしながら、ミニ盆栽はまだ幼くデリケートです。幹や枝、葉の状態を観察し、「力強い木であるかどうか」を見極めて芽切りに臨んでください。
芽切りの後、仮に複数の新芽が確認されたときは、少し伸びを観察し、「このまま伸ばしてよい枝ぶりになるか」を想像しましょう。「こちらの枝は不要」と判断した芽については、ピンセットで取り除きます。
しかしながら、芽切りはセオリー通りにはすすみません。元気のない樹木であれば芽切りを控え、しっかり成長させなければならないでしょう。逆に成長著しい場合は、こまめに確認します。ピンセットの出番が何度も…ということも考えられます。
中芽切り
暑さが増す8月下旬頃、「中芽切り」を行います。これは幹や枝が間延びしていると感じられるとき、夏の初めに芽切りを行わなかったときに検討します。
ひとつの節から3本以上芽が伸び、枝になろうとする前に中芽切りをすると、枝の整理ができると同時に、翌年の芽吹きを促進することができます。
枝の真ん中から伸びた芽(近い将来枝になるもの)は通常「強い」ので残すことが多いのですが、枝を太くしたいときはしっかり観察し、真ん中に限らずどの枝が強いかを見極めてその枝を残します。
葉を短く保ちたいための中芽切りは3月頃が、枝を伸ばしたいときの中芽切りは10月前後の秋が適しています。
冬
黒松は、冬、成長を止めて「休眠期」に入ります。
この頃は、水も肥料もさほど多く必要としません。特に肥料は不要で、与えすぎると肥料焼けを起こしますので注意が必要です。肥料焼けとは、成長に必要な分量以上の肥料を与えられることにより、根が傷み、ひどいときは葉にまで影響が及ぶことをいいます。
黒松を育てるとき、冬に行うことは「葉抜き」です。
葉抜き(もみあげ)
一年の“総仕上げ”となるのが、葉抜きです。もみあげとも呼びます。
昨年もしくはおととしの葉を取り除くことで、風通しをよくしたり、葉への日当たりをよくしたりする目的で行います。風通しが悪いと、葉や、葉が覆った枝部分に虫がついてしまうこともありますので、この作業はとても大切です。
枝の状態を1本1本確認し、弱そうな枝の葉はそのままにします。強い枝の葉は少なめにし、中くらいの強さの枝の葉は、弱い枝と強い枝との中間ほどの本数にし、「強さ」のバランスを取ります。
遅くとも11月~次の年の1月中には行いたい葉抜きです。
大きな黒松の盆栽ならば、思い切ってピンセットや手で抜いてしまっても大丈夫です。しかしながら、ミニ盆栽の場合は、葉を抜くよりもハサミで切ってしまう方がよいでしょう。まだ幼くデリケートですので、葉の根元のハカマを残しておくと安全です。
「芽切り」の重要性と注意点
上では、季節ごとの手入れの仕方についてご説明しましたが、「芽」に関する作業がとても重要とご理解いただけたことでしょう。この中でも最重要なのが「芽切り」です。
新芽から葉が出て、葉が成長するごとに芽は固くなり、枝となっていきます。それをそのまま残してもよいと判断すればそのままに、いらないと考えるときはカットします。つまり、「将来の樹形」を決める作業なのです。
大事なのは、芽切りすると決めた芽は、
- 現在の枝に対し直角に切り落とす
- 特に幹に対して下方(地面方向)に向いたものは積極的に切る
ということです。消毒したハサミを使用し、カットした部分に菌類が入らないようにしてください。
黒松のミニ盆栽の芽切りはどうする?
ミニ盆栽で黒松を楽しみたい場合、見た目の柔らかさ(力強さを感じさせない)と、かわいらしさ(小ささ)をキープする必要があります。
このときは、芽切りをせずに、新しい葉を育ちにくくするという“裏技”を使います。
強い剪定をすると、次の成長期に切り口から“満を持して強い枝が出る”など、「ゴツゴツ感」が現れます。また、葉や枝を充実させるとその分根も広がらなければならず、「ミニ盆栽」でいることができません。
このような問題を避けるために、今年の葉を絞り込んでおき、来年用に準備する葉の数や長さを抑制するのです。これならば、芽切りをせずにすみ、かわいらしさを保っていられます。
具体的には、次のような方法を採用します。
- 芽切り時期を見極める(新芽の状態を確認)
- 古い葉、特に強い芽から出ている葉をハサミで丁寧に切る
- その後に成長、強い芽を発見したら、その葉も切る
水や肥料、太陽光は十分に与えながらも、今ある葉を適度に絞ることで、翌年の葉の数や長さを調節しよう、という考え方です。
黒松のミニ盆栽は、丈の低さとポツポツと生えた針のような葉が魅力です。この姿を維持するためには、庭木としての黒松とは逆の考え方をしなければなりません。
まとめ
黒松の盆栽を楽しみたいときは、まず、黒松の特徴を知り、最低限の「好環境」を整える必要があります。強い樹木でなければ、芽摘みや剪定などの手入れに耐えられない、虫にやられてしまい傷んでしまう、ということが起きてしまいます。
そして、「どんどん大きくしたいのか」、「ミニ盆栽のままがいいのか」を決めてください。方向性によって、枝や芽の手入れ法が変わってしまいます。
あなたは、どんな黒松が好みですか? どっしりと立派な盆栽にしたいのなら剪定や葉の整理、針金かけの知識が必要です。ミニ盆栽として楽しみたいのなら、翌年の葉を抑制するよう心掛けた手入れをしなければならないでしょう。